２０２０年、新型コロナのため全国高校野球選手権が中止されました。この大会には鹿児島県から、神村学園高等部が出場するはずでした。
あれから３年、ＯＢとなったナインが甲子園球場で白球を追いました。止まったままの”あの夏”を取り戻そうと、全国各地の元高校球児たちが集まって開催された手作りの”甲子園”のワンシーンです。３年越しの夢舞台は彼らの目にどう映ったのでしょうか？
全国から甲子園球場に集まる選手たち。その中に神村学園のユニホームを着た選手たちの姿もありました。
「ちっちゃかったっす」と笑いながら話す内田涼平選手。確かにおなかに貫禄が。有川輝選手もおなかをポンポンとたたきながら「こんな感じです」と一言。ズボンも窮屈そうで「足上がらないです、ここまでしか上がらない」。
この日、集まったのは２０２１年３月に卒業した元高校球児たち。今も野球を続けている人、競技を引退している人、さまざまです。
２０２０年の夏の県大会で鹿児島を制した神村学園。しかし、その先に甲子園の道はありませんでした。
新型コロナの影響で中止となった夏の甲子園。
止まったままの時間を動かしたい…。そんな思いで立ち上がったのが「あの夏を取り戻せ」プロジェクトです。各都道府県の地方大会で優勝した当時のチームなどで、あの時果たせなかった甲子園の舞台に集まろうという取り組みです。
発起人は当時、甲子園を目指していた武蔵野大学３年の大武優斗さん。賛同の声は次々と上がり、クラウドファンディングなどで、約７０００万円の運営資金が集まりました。
１１月２９日、甲子園球場には神村学園野球部の小田大介監督も駆けつけました。
選手「おはようございます」
小田監督「立派になったね～（笑）」
３年越しの夢舞台。いよいよ憧れの甲子園球場での入場行進です。スタンドに陣取る吹奏楽団はこの日のために集まった有志たち。甲子園開会式と同じファンファーレを演奏しました。
「神村学園高等部ＯＢ」の場内アナウンスが流れ、ナインは大切にとっていた高校時代のユニホームを着て、甲子園の土を踏みしめました。
チームのキャッチャーを務めていた山口選手。母親の美耶さんも駆けつけていました。
神村学園ＯＢ・山口選手の母　美耶さん
「（甲子園の中止が決まった時、息子から）泣きながら電話がかかってきた。もう言葉…今でも考えたら涙が出そう。言葉を掛けられなかった。内心、他の高校野球の子どもたちも応援したいけど、うちらの時はできなかったのにという思いで。どこかそういうのがあったけど、これでちょっと吹っ切れるかなと」
選手を見守ってきた保護者にとっても、３年越しの甲子園です。４２チーム、約７００人の元高校球児たちが甲子園に集まりました。
プロジェクト発起人・大武優斗さんはセレモニーで「いくら過去を取り戻したくても、過去に戻ることはできません。僕たちの世代は不透明なあすに希望を持ち、未来を変える意思を持った世代になります。きょうという日が『あの夏世代』にとって未来に進む日になりますように！」とあいさつしました。
そして、各チームに５分間だけ与えられた甲子園球場でのプレーの時間がやってきました。
「みんなでやろうや！楽しく」
神村学園のＯＢたちは、３年前のあの夏のように、ひたむきに小田監督のノックを受けました。
当時チームの４番バッターだった井上選手。プロを目指して大学で野球を続けています。
神村学園ＯＢ・井上幹太選手
「めちゃくちゃ楽しかった。よかった。久しぶりにみんなで野球やれて」
次の日、兵庫県姫路市の球場で、チームは福島県の聖光学院と交流試合を行いました。
３年ぶりのこのメンバーでの試合。当時とは年齢も見た目も少し変わり、試合は３対５で惜しくも敗れましたが、甲子園を目指した“あの夏”の記憶はしっかりと心の中にありました。
この試合でホームランを打った４番の井上選手は応援に訪れた母・みゆきさんにボールをプレゼント。
井上選手の母　みゆきさん
「（３年前）『俺はこれからどうしていったらいいんだろう』と涙の声を聞きながら家族で号泣して…それに変わるようなきょうのすごく楽しい試合」
井上幹太選手
「いい思い出になりました」
神村学園ＯＢ・山口想渉選手
「高校野球に対して未練というか、甲子園で最後やりたかったなという気持ちがあったんですけど、こうしてまたみんなで来られたので、高校野球に一つけじめをつけられると思った。楽しく野球をできたのでよい２日間でした」
神村学園野球部・小田監督
「神村学園の選手だったという誇りを胸に、これからも頑張ってください。応援しています」
コロナにほんろうされたこの世代は、決して「かわいそうな世代」ではありません。ピンチをチャンスに変えて、逆転ホームランを決めた特別な世代です。