いつものように学校から帰ってきて宿題をしていると、どこからともなく香辛料の芳ばしい香りが漂ってきた。空腹に耐え兼ねた私はいつの間にか匂いのする方へと足を運んでいた。キッチンのあるリビングの引き戸を滑らすと、熱せられた生暖かい空気と共に、目を瞑りたくなるほどの柔らかな光が漏れ出した。しばらく光に酔っていた私を気にかけるように母の優しい声が届いた。倦怠感に痺れて沈黙したが、夕飯の献立を知りたくなった私は、だらだらと母の手伝いを始めた。ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中でジャガイモが踊っている。そのとき、昨日、近所のスーパーにカレーのルーをお使いに行ったのを思い出し、思わず笑みを浮かべた。母はそんな私の口元を、細めた横目で見つめている。
秋の優しい斜陽の差し込むキッチンに、二人の音が溶け込んでいく。
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