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毎月護摩を修法し、皆さまのお願いごとが書かれた護摩木を焚き上げおります。先日、自分の袈裟を見ると、穴だらけになっておりました。護摩を修法する度に、火の粉が身に降りかかるためです。そうなのです。護摩を修法する行者の袈裟は、無傷ではいられないのです。一座の修法の中で、必ず火の粉は飛んで来ます。しかし、いつ飛んでくるかは分かりません。その様な中で、火を怖がっていては、護摩は修法できません。大切なのは、「火の粉は、必ず飛んでくるのだ」という心構えです。そうすれば、いざ火の粉が飛んできた時に、動じずにすみます。このような、護摩を修法する態度が、そのまま生きていく時にも大切になってくるような気がしています。人生に置き換えてみれば、護摩の「火の粉」は、我々の身におこる「災難」や「苦しみ」「悩み」と言えるかもしれません。
私の祖父である須磨寺前管長小池義人和尚は、二十六年前の二月十二日インドで遷化しました。今年で二十七回忌になります。当時私は、九歳でしたので、インドに行くことができませんでした。その後、大学生の時、祖父を偲び、孫世代でインドに行ったことのなかった従姉と一緒にインド旅行に行くことにしました。その旅行のために買ったガイドブック「地球の歩き方 インド」の冒頭に次のような文章が載っていました。
「インド。それは人間の森。木に触れないで森を抜けることができないように、人に出会わずにインドを旅することはできない。インドにはこういう喩えがある。
深い森を歩く人がいるとしよう。その人が、木々のざわめきを、小鳥の語らいを心楽しく聞き、周りの自然に溶け込んだように自由に歩き回れば、そこで幸福な一日を過ごすだろう。だがその人が、例えば毒蛇に出会うことばかりをおそれ、歩きながら不安と憎しみの気持ちを周りにふりまけば、それが蛇を刺激して呼び寄せる結果になり、まさにおそれていたように毒蛇に噛まれることになる。
インドは「神々と信仰の国」だという。また、「喧噪と貧困の国」だともいう。だが、そこが天国だとすれば、僕たちのいるここは地獄だろうか?そこを地獄と呼ぶならば、ここが天国なのだろうか?インドを旅するキミが見るのは、天国だろうか地獄だろうか?さあ、いま旅立ちの時。インドはキミに呼びかけている。『さあ、いらっしゃい!私は実はあなたなのだ』」
当時、大学生だった私は、最後の呼びかけが、とてつもなく奇妙に感じ、そして、ほとんどその言葉の意味が分かりませんでした。しかし今、改めてこの文章を読むと、とても仏教的だと感じます。自分という存在を限りなく広げていくことによって、大いなる我に目覚める、お大師様のおっしゃった「無我の大我」に通ずると感じるのです。インドという場所は、様々な出会いの中で良くも悪くも自分の価値観をゆさぶられ、新たな自分に出会うきっかけをくれる場所なのだ、と今は思います。しかし、その時は、インドでは周りに溶け込むことが大事で、過度に怖れないことが大事なのだなと、理解したつもりでインドに旅立ちました。ところが、着いた当日の夜に、ニューデリーで野犬に追いかけられた瞬間に、そんなことはどっかに吹っ飛んでしまいました。そして、その後も、二十三時間乗る寝台列車の中で、食中毒になり高熱にうなされ、観光どころではなく病院で注射される羽目になったのです。とても周りに溶け込むように自由に歩き回ることはできませんでした。そして、ガイドブックに書いてある通りだと、妙に納得したのでした。
「嫌な思いをしたくないな」とか「トラブルに出遭ったらどうしよう」などと、まだ起こってもいないことを怖れていては、旅行は楽しめません。護摩の火の粉と一緒なのです。必ず何かしら起こるのだと腹を決めて、今この時を楽しむことが大切なのでしょう。インド旅行は、そんな生きる上での心構えを教えてくれた気がしています。
その昔、趙州老師という禅僧が弟子から「大困難が訪れた時に老師はどうなさいますか?」と問われた時、「恰好!」(よしきた!)と答えたそうです。どんなことが起きても「よしきた!自分にぴったりの困難がやってきたぞ」と受け止めて生きることを説かれたのです。そのように困難を受け止めることは、なかなかできることではないですが、苦しみ多き人生を生きていく時に、とても大切な態度であり智慧であると感じます。「人生には不幸もある」という大前提を忘れずに生きることが大切なのだと思います。私が尊敬する福祉施設はっぴーの家の代表の首藤さんは、「トラブルはお題だ」とおっしゃっていました。毎日起こる予想外のトラブルを、まるで自分に課されたクイズのように、その解決にむけて行動する過程を楽しもうとさえしている姿に、しなやかさと強さを感じます。
先行きが見えない、今の時代だからこそ、いずれ起こる困難や災難を、怖れずに今一瞬を懸命に生きていくこと。そして、困難に遭った際は、たとえ不安でいっぱいでも、周りに助けを求めながら「よしきた!」の精神でむかっていきたいと思います。
【毎月、須磨寺にて法話をさせて頂いております】
毎月18日の10時からの護摩祈祷と写経会、20日と21日は11時半から奥の院にて、そして、21日は14時から護摩祈祷をさせて頂き、法話をさせて頂いております。
【須磨寺オフィシャルサイト】
www.sumadera.or.jp
【須磨寺 不動護摩供のご紹介】
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【須磨寺「須磨の火祭り ~柴燈大護摩供 火生三昧火渡り修行~」】
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【経木供養所「八角堂」落慶法要:大本山 須磨寺】
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■楽曲提供:小馬崎達也
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