★☆楽曲情報☆★
寶塚少女歌劇めりけん音頭「ビツグ・アツプル」より
『ビツグ・アツプル』
作詞：岡田惠吉
作曲・編曲：岩河内正幸
唄：響千鈴、寶塚少女歌劇團聲樂專科生
伴奏：寶塚管絃樂團
レコード番号：コロムビア29838
1938年8月新譜
歌詞の出展：『寶塚樂譜』（1938年7月1日号）
収録CD：『Swing Time 1928-1941』（日本コロムビア 2012年）
★☆解説とコメント☆★
　最近戦前の宝塚歌劇団と阪急電鉄の歴史を調べているので（ゴメンナサイ！当方男でしてまだ舞台は1度しか観てないのに興味津々なんですよ）、1曲「神曲」を投稿しちゃいます！
　100年以上歴史のある宝塚歌劇団。そのユニークな地位を占める独自のエンタメは、昔も今もファンの心を鷲掴みにしています。
「夢の舞台、宝塚」というのは、何も戦後になってから現れたものではありません。戦前の宝塚だって、とっても素敵でおしゃれで夢のような非日常の演劇・エンタメ体験をさせてくれたんです。
　この『ビッグ・アップル』は1938年の同名のレビューの主題歌で、1981年の『ザ・ビッグ・アップル』とは別です。戦前版の作詞と脚本と演出は岡田恵吉。当時アメリカに取材した岡田がアメリカのJAZZやポピュラーの要素をふんだんに取り入れた舞台だったようです。
昭和前期の宝塚の演出は、まず旧宝塚大劇場が完成した1920年代以降、最初にフランスのシャンソンに倣い、やがてアメリカのJAZZを取り入れ、日中戦争以降は国策モノとJAZZが相半ばし、やがて1940年以降は軍国主義一色となっていったという歴史があります。
『すみれの花咲く頃』が名曲なので、ついつい「昭和前期の宝塚はきっと素敵な舞台だったんだろうなあ…」とワクワクと期待して1930年録音のそれを聴いてみたあなたは、きっと落胆するでしょう。歌も伴奏も下手なんですね。
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でもそれは揺籃期だから。1930年代半ば以降、歌唱も演奏もグンと巧くなります。小林一三は「まだまだヘタだけど、いつかはと」将来を見越して早いうちに大劇場を建設したのでしょうね。
1938年のこの曲いかがです？しっかりJAZZでしょ、いい曲でしょ！？
そう、いくら「日本のジャズはJAZZじゃない、ましてや戦前のは…」と笑われたって、当時の日本に住んでいた業界の人びと、つまり作詞家・作曲家・編曲家・歌手・舞台演出家・脚本家・レコード会社の社員といった人は、「日本」にはない「外国」の文化を模倣して学んで立派に自分の母国語の「日本語」を使い、日本語のJAZZをエンタメ化したコンテンツを作ろう、レコードを買う人びとに聴いてもらおう、舞台を観て楽しんでファンになってもらおう、と試行錯誤を凝らして立派な「日本独自のコンテンツ」を作っていたし、聴く人観る人もそれを楽しんでいたところがあります。
　これが西洋から輸入されて近代以降で昭和前期に形成された、今なお続く日本のエンタメの、そして人間の歴史ですよね。
　もっと言うとこの1930年代という時代は、15年戦争下で国が国際的に孤立してしまう中で「日本文化」が蛸壺化のように全盛期になり「戦前型「日本スゴイ」「海外の反応」」現絶が流行ってその一方で軍国主義が最高潮に達した時代だったんです。
そのあたりは『「日本スゴイ」のディストピア―戦時下自画自賛の系譜－』（早川タダノリ 青弓社 2016年）に詳しいので、ご一読をオススメします。
　戦前宝塚のいいものはまだまだありますから、次回以降もご紹介する予定です。お楽しみに。
2023年2月23日投稿
桔梗刈萱 Η ΑΛΗΘΕΙΑ ΕΛΕΥΘΕΡΩΣΕΙ ΥΜΑΣ