これは、【NO.83】の肥後守定カネ駒と同じ金物店で購入したものです。大きな紙箱の中にカネ駒と共に、１本だけ眠っていたものですが、この品が一番錆びが酷く、メッキした鞘でさえ細かな錆びを吹いて居ました。それを錆取り液の中にじっくり、一晩漬け込んだものです。
この觀龍肥後守は、「先代？カネ駒」よりもなお、古い物だと思われます。錆びの程度がより酷い事もありますが、この一本が売れ残ってきた訳があるのです。
この個体を開こうとすると、「チキリ」が異常に厚い為、一直線に開かず、「く」の字にしか開かないのです。つまりは不良品だった訳です。昭和少年が肥後守を買う時は、今のように工業的大量生産ではありませんから、個体差が大きく、刃を開いて矯めつ眇めつ、一つ一つ吟味して、選んで買ったものです。当然、開いても「く」の字の癖が強い、この１本は誰も買わず、その後カネ駒が入荷して、そちらが売れ筋となり、この一本は紙箱のなかで眠り続けていたものでしょう。
( → この一直線に開かない、と言う不具合は、鉄工用ヤスリで、チキリ下側を削る事により修正しました。それでもなお、良くない点は、良品ならば開いた時に、刃と鉄鞘が一直線になります。この個体は180度に開いても、なお段違いになったままです。)
なお、これは自社の最終生産品と思われます。永尾カネ駒製作所に生産を委託した後の物は、座金、鋲が全く違って来て、カネ駒特有の鋲の頭が座金を覆い尽くすタイプの物に変わります。「別打」とありますが、割込か不明でしたが、研いでいると金属の色が異なり割込と分かりました。
さらに、この個体が自社生産終末期のものである事は、穴を見ても分かります。穴にバリが残っている事もそうですが、穴の位置が雑すぎるのです。刃に近すぎて、穴の中程まで刃が届いてしまい、紐などを通そうものなら、切断してしまうのです。正に末期的、断末魔的製品です。
切味はなかなかです。両刃ですが、鉛筆の先で指したように、右側に広い小刃が付いています。当初の形を見てもらう為に、小刃までは研ぎませんでした。それでもなかなかの切味です。カネ駒の特大よりも、サイズ的には大きいです。また、刃厚も峰側を並べて観察すると「先代？カネ駒」よりも、けっこう厚みがあります。
せっかく「觀龍」などと言うありがたみか、御利益のありそうな名前でありながら、絶えてしまったのは残念です。
なお、其の後、小刃もヤスリ目が消える程に徹底的に研いだら、鋭い切味に変わりました。さすが、昭和59年に「暮らしの手帳」のテストで220本中、第6位に輝いただけの事は有ります。刀身は悪くないのです。悪いのは、粗雑な作りの鞘と仕上げなのです。
刃長10.1㎝ 刃幅15.5㎜、刃厚2.7㎜ 全長22.1㎝。
余談になりますが、暮らしの手帳社は集めた220本余りの肥後守類をどうしたのでしょう。玉石混交かも知れませんが、今となっては二度と収集できない一大コレクションです。残っていれば、竹中大工道具館か、国立民族博物館あたりに寄贈してもらって、誰もが眺められるようになれば良いのですが....。